Sainsbury's White Paper - 英国の事例より読み解くネットスーパー事業の成功に不可欠な3つの施策-
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Sainsbury's White Paper - 英国の事例より読み解くネットスーパー事業の成功に不可欠な3つの施策-

※本White PaperはNotionで作成されています。

Executive Summary

  • COVID-19の影響でネットスーパーが急激に広がった英国では、その需要の増加に急速・柔軟に対応できたSainsbury'sやTescoなどの大手小売が、顧客が必要としたタイミングで安定したサービス提供に成功。新規顧客の獲得や顧客満足度の向上を達成した。
  • 一方、対応が遅れたOcadoにおいては、顧客が利用したい時にサービスを利用できない事例が多発し、多くの顧客の離反に繋がった。
  • 日本国内においても、ネットスーパーの需要増加に対応可能な供給インフラを準備することが不可欠だろう。大きく以下の3つのイシューへ取り組む必要があると考える。
    • ネットスーパー対象店舗数の拡張 - オペレーションのマニュアル化やシステムの定型化
    • 店舗ごとの注文対応キャパ拡張 - ピックパックキャパ拡張・効率化、バックヤードなどの追加スペース確保
    • 店舗からの受け渡しキャパ・手段拡張 - 配送業社との提携強化、自社配送の拡張、Click & Collectサービスの立ち上げ

COVID-19により英国の食品小売EC化が急進

1. この1-2年でネットスーパー市場が急増

ネットスーパーの店舗売上に占めるEC化率は2020年1月には8%だったが、2021年1月には16%を記録し、大幅な成長を遂げた (Internet Retailing)

2. 日々の食卓のオンライン化 - 生鮮のEC購買が浸透

例えば肉・魚類のネット購入はこれまで避けていた家庭でも、購入を開始したところが多数 - 下グラフのTotal MFP(肉製品, 魚製品)のオレンジ線参照 (AHDB)

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3. 顧客利用シーンの拡張 - ニッチからマスサービスへ変革

  • 2020年には国民の過半である59%もの人がネットスーパーを利用 (Mintel)
  • Before COVID-19は家族世帯がネットスーパーを利用する中心層だったが、COVID-19で幅広い層において利用が拡大。例えば退職家庭のオンライン購入額は2020年1月からの一年間で2.3倍へと大幅拡大 (Kantar)

4. 買い物スタイルとして習慣化

  • マーケットレポート会社の調査によると、After COVID-19にネットスーパー利用をやめると回答した顧客は5%にとどまる (Mintel)
  • After COVID-19の消費者行動についてのデロイトの調査によると、スーパーの配送とClick & CollectはBefore COVID-19比較で利用頻度を増やすと回答した人がそれぞれ回答者の41%、25%と、After COVID-19も安定して高い利用頻度が予測される (Deloitte)
レストラン利用の減少と配送やピックアップの増加はAfter COVID-19も継続すると予測される (
レストラン利用の減少と配送やピックアップの増加はAfter COVID-19も継続すると予測される (Deloitte)

押し寄せる需要増への対応速度が分水嶺に

5. 従来 - ネットスーパー専業Ocadoが業界を牽引

  • イギリスのスーパー業界全体(オフライン含む)の売り上げシェアは上位から順番に一位Tesco(27%)、二位Sainsbury's(16%)、三位Asda(15%) (Statista)
  • 一方、Before COVID-19のネットスーパー売り上げシェアは上位から順番に一位Tesco(31%)、二位Asda(18%)、三位Ocado(15%)、四位Sainsbury's(14%)と、スーパー業界全体では10位以下のOcadoが高い存在感を示していた (Research and Markets)
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センター型Ocadoのサプライチェーンマネジメントについては、10X発表の過去記事もご参照ください: https://speakerdeck.com/10xinc/ocado-supply-chain-management-white-paper-by-10x

6. COVID-19による需要増に迅速に対応したプレーヤーが急進

柔軟に供給枠を増やしたSainsbury'sやTescoが新規顧客獲得や顧客満足度向上を達成

  • Guardianの調査によると、COVID-19影響で巣ごもり需要が急激に増えた2020年夏時点で次の日の配送枠が利用可能だったスーパーはTescoとSainsbury'sのみ (Guardian)
  • その中でも、Sainsbury'sは2020年夏時点で一番安価な配送のサブスクサービスを提供(£60/ 年)。これにより、長期的な新規顧客の獲得を達成した (Guardian)
  • 結果、Sainsbury'sの2021Q1におけるYo2Y ネットスーパー成長率は142%と、大幅な成長を遂げた (Sainsbury's, 2021/7, factsheet)。競合のTescoは2020年度の同成長率が77%
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  • 加えて、配送リソースの追加が必要ない形でのオンライン注文対応のキャパ増強策として、顧客がオンラインで注文した商品を顧客が店に取りに来るClick & Collectサービスを大幅拡張した (Sainsbury's, 2021/6)
  • これらの施策が功を奏し、Sainsbury'sの顧客満足度は競合と比較して向上 (Sainsbury's, 2021/7, slides)
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  • ネットスーパーアプリレビューもその事実を裏付けている - 13万レビューで4.7スターと、高評価。特に配送枠の空き状況の多さに対してのポジティブなコメントが多く見受けられた。「COVID-19によるロックダウン中に配送枠が利用可能だったため、以前使っていたスーパーから乗り換えた」とのコメントも有 (App Store, Sainsbury's Groceries)

7. Ocado - 需要増への対応が遅れ顧客からの不満・離反が続出

  • Ocadoは需要の急増でパフォーマンスに問題が起きたため、2020年にしばらくの間アプリをダウンさせていた (App Store, Ocado)
  • Ocadoアプリレビュー例 - 店舗側からの返答部分には一時期アプリをダウンさせていたとの記載あり (
    Ocadoアプリレビュー例 - 店舗側からの返答部分には一時期アプリをダウンさせていたとの記載あり (App Store, Ocado)
  • Ocadoのネットスーパーアプリレビューによると、Before COVID-19高評価のコメントが多かったが、直近は配送枠が空いていないことやアプリが繋がらないことを理由に別のスーパーに乗り換える顧客が続出 (App Store, Ocado)
    • 2010年からOcadoを利用しているという別の顧客は、アプリにアクセスできないとの理由からOcadoの利用をやめたとコメントしている
    • 2021/6時点で配送枠が9,000人待ちだったとのコメントもあり。そのコメントをした顧客はTescoに乗り替えたそう
    • Ocadoのネットスーパーアプリは0.2万レビューで3.3スターと利用者数・評価共に低迷 (
      Ocadoのネットスーパーアプリは0.2万レビューで3.3スターと利用者数・評価共に低迷 (App Store, Ocado)
  • Ocadoは2020年12月に発表した業績予想で前四半期に比べて成長率が鈍化。これはキャパシティ不足によるもので、市場の期待に満たなかったことから決算後には株価が5%下落した(Reuters)

Sainsbury’s - 3つの施策により急激な需要増へ対応

8. 施策1 - ネットスーパー対応店舗の急速な拡張

オペレーションのマニュアル化やシステムの定型化により対象店舗拡大を実現

  • 対応店舗の増加 - 2020年3-6月の約4ヶ月間で約200のClick & Collect対応店舗を追加 (Sainsbury's, 2020/9)
  • 即日配送の開始 - 2020年よりDeliverooやUber Eatsとの提携を開始、200店舗にてこれらの業者による即日宅配が利用可能に (Express)。同年より自社自転車宅配キャパによる即日宅配サービスChop Chopを立ち上げ、20の街の50店舗で利用可能に (Sainsbury's, 2020/5)
  • オペレーションのマニュアル化 - トップダウンで業者との提携やClick & Collectサービスの立ち上げを実施。対応店舗でのオペレーションを統一することで確実で早急なキャパ拡大を達成 (Sainsbury's, 2021/6)
  • システムの定型化 - 顧客とのインターフェイスを同一アプリにて実現。宅配ルートの最適化システムの改良と同時に、2021/3よりSCMとロジスティクス管理を連結させたモデルを作成中 (Sainsbury's, 2021/6)
  • 2020年に立ち上げられた即日宅配サービスChop Chopアプリ (
    2020年に立ち上げられた即日宅配サービスChop Chopアプリ (App Store, Sainsbury's ChopChop)

9. 施策2 - 店舗ごとの注文対応キャパ拡張

ピッキングキャパ拡張、ピックパックの効率化、バックヤードなどの追加スペース確保

  • ネットスーパー対応枠の拡張 - 2020/3-2020/10の8ヶ月間でネットスーパーの対応キャパを週350,000枠から週736,000枠に倍増 (Sainsubry's, 2020/11)
  • ピッキングキャパ拡張 - ピッキング・配送の需要増加に対応するため、2020/3-6の3ヶ月間で25,000人の職員を追加採用 (iNews)
    • 一方、競合スーパーのTescoでも新たに10,000人のピッキング職員を新規で雇用 (Guardian)
  • 店舗内装変更による効率化 - 以前までは顧客が目的の品以外も見るような導線を引くことを重要視していたが、ピッキングの効率性を重視した店内へ内装を改造 (Financial Times)
  • バックヤードなどの追加スペース確保 - 内装の改造と同時に、Click & Collect用のスペースを新たに確保。立ち上げスピード重視で、駐車場に停めた冷蔵トラックをピックアップポイントとする店舗も設置 (Sainsbury's website)

10. 施策3.1 - 店舗からの受け渡しキャパ拡張

配送業者との提携強化並びに自社の配送トラック追加導入

  • 配送業者との提携強化 - 食品配送業者のDeliverooとUber Eatsとの提携/ トライアルを2020年より新たに開始。2021には既に200の店舗でこれらの業者との提携によるサービス提供 (Express)
  • 自社の配送キャパ拡張 1 - 2020年に約1000の自社所有の配送用トラックを追加導入。同時に配送枠の時間帯を前後1時間拡張し6:30-23:30で対応可能とした (Sainsbury's, 2020/9)
  • 自社の配送キャパ拡張 2 - 配送・ピッキングの需要増加に対応するため、2020/3-6月の3ヶ月間で25,000人の職員を追加採用 (iNews)
    • 一方、競合スーパーのTescoでも新たに3000人のドライバーを新規で雇用 (Guardian)
自社所有の配送用トラックを追加導入
自社所有の配送用トラックを追加導入

11. 施策3.2 - 店舗からの受け渡し手段拡張

C&C拡大による、店舗側の負担が軽く・顧客の利便性の高い供給手段を拡張

  • 供給キャパ拡張 - 顧客がオンラインでオーダーした商品を店舗がピックパックし、予め決められたスロット時間内に顧客が商品袋をピックアップするClick & Collectは供給キャパの拡張が容易 (10X, 2020/5)
  • 投資額の抑制 - 店舗側からすると、ラストマイルの配送の必要がなくコストが抑えられる上、駐車場に停めた冷蔵トラックをピックアップ場所とするなどの工夫により、最低限の投資で受け渡しキャパ増強を達成可能 (MotorTransport)
  • 顧客利便性向上 - 顧客側視点でも、Click & Collectは店舗での買い物に比べ店舗内・周辺で過ごす時間が少なくて済む上、配送に比べてコストや利便性の点で優位性あり(具体的には、配送料不要、配送枠の制約なく早いタイミングでの受け取りが可能、住所入力不要、家にいるタイミングの調整が不要、購入前に商品の確認が可能、欠品していた場合の対応を自身で決められる等) (Deloitte)
  • 駐車場に停めた冷蔵トラックもピックアップ場所になりうる(
    駐車場に停めた冷蔵トラックもピックアップ場所になりうる(MotorTransport)
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Click & Collect (非配送型ネットスーパー)ついては10X作成の過去記事もご参照ください: https://speakerdeck.com/10xinc/fei-pei-song-xing-netutosupa-click-and-collect-white-paper-by-10x

日本でも需要増に対する対応能力への投資が不可欠

12. 日本国内 - 大きな成長余地のあるネットスーパー

  • 日本国内のスーパー業界におけるEC化率はイギリス・アメリカなどに比べ大幅に低いが、この分野に適切に投資を実施している企業では確実な成長を見せており、日本のネットスーパーには大きなポテンシャルがある (10X, 2021/9)
  • 10X Culture Deck:

13. 成長に向けたデジタル化特有のハードルがある

  • 多くの企業にて顧客インターフェイス・サプライチェーン・管理システムにおけるデジタル化特有のハードルがその拡大の障壁となっている(10X, 2021/9)
  • 10Xはそれらの障壁を超えていくためのプロダクト、Stailerを提供
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14. キャパ拡張が可能なインフラの早期構築が成功に不可欠

10Xは、そのためのオペレーション・システム設計や構築などの全面支援を行っている

  • イギリスの事例から、下記三施策がネットスーパー供給キャパ拡張に重要なことが読み取れた
  • 1.ネットスーパー対象店舗数の拡張 - オペレーションのマニュアル化やシステムの定型化

    2.店舗ごとの注文対応キャパ拡張 - ピッキングキャパ拡張、ピックパックの効率化、バックヤードなどの追加スペース確保により達成

    3.店舗からの受け渡しキャパ・手段拡張 - 配送業者との提携強化、自社の配送キャパ拡張、Click & Collectサービスの立ち上げ・拡張

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10Xでは、スーパーやドラッグストアEC化のオペレーション設計・構築も含めた立ち上げの全面支援を行っています。ご興味のある方は HPコンタクトフォーム よりご連絡ください。

Stailerの概要については、下記の資料をご覧ください。

以上

出典